手のひらに、一冊のエネルギー。

株式会社サンマーク出版

自己啓発・ビジネス・実用など、幅広い分野でベストセラー、ロングセラーを送り出す出版社。『脳内革命』『小さいことにくよくよするな!』『病気にならない生き方』など有名作品多数。「こんまり」こと近藤麻理恵 のミリオンセラー『人生がときめく片づけの魔法』は海外42か国で翻訳され、世界的な大ヒットを記録した。昨年には『体幹リセットダイエット』が、出版不況が叫ばれるなか、120万部を突破した。植木社長は独自の理念と手法で、作者、書店、読者を巻き込みながら、売上を確実に伸ばしている。

サンマーク出版 代表取締役社長 植木宣隆

ミリオンセラーを支えた、
サンマーク出版の「美学」

サンマーク出版では、直近の22年間で8冊のミリオンセラーが出ています。京セラ創設者の稲盛和夫さんの『生き方』、「戦後第2位の売上」と社会現象にもなった『脳内革命』、翻訳本としては異例の大ヒットとなった『小さいことにくよくよするな!』、さらに『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』という作品もあります。

どんな本が売れるのか。多くの人に読んでもらえる本はどういうものなのか。私も編集者としてのキャリアを通じて、随分考えました。数々のヒット作品を見比べて、どんな共通点があるのかと頭を捻りました。その結果、最低限必要な5つのポイントがわかってきた。ここで明かしてしまいますと、①驚きを生むタイトルになっている、②心と体を癒し、健康を求めている、③読むことによって読者自身が変われる、④地方でも売れる本になっている、⑤女性に応援してもらえる、の5つです。もちろん、これらすべてを満たしていれば、確実にヒットになるというわけではありません。しかし、ヒットする確率は上がるのではないかと考えています。

これら5つのポイントを総括する言葉として、私はよく「お見舞いに持っていける本」という表現をします。改めて考えてみると、けっこう難しくありませんか? 「お見舞いに持っていける本」、どれくらい思いつきますか? 具合が悪くて病院にいるのだから、難し過ぎる本はよくありません。大きくて重い、ページ数が多すぎるものも避けたほうがいい。内容についても、読むことで心が元気になったり、前向きになれたりする本がよさそうです。こうした基準をクリアする本は多くの人に好きになってもらえるんじゃないかと思うんですね。

だから、いわゆるスキャンダルとか、誰かを傷つけるような内容の本は出しません。人の心を応援する、ポジティブな本を出していこうというのはもう、決めています。売上だけ考えれば、もったいないやり方なのかもしれません。ただ、美学というのは売上以上に大事だと思うんですね。それに、明確な美学・スタイルを打ち出すことが売上に繋がるという考え方もできる。実際当社は海外でもけっこう有名なんです。Webサイトで新刊の予告をすると、まだ発売前にもかかわらず、「ライツ(版権)を売って欲しい」ってオファーが来たりしますから。これは「サンマーク出版の出す本なら間違いないだろう」という信頼を得ているということです。

まっとうなことを、
柔軟に実践する

サンマーク出版の経営理念は、「天地自然の理(ことわり)に学ぶ」というものです。天地自然の理、と言うくらいですから、これは全ての原理原則に当てはまる言葉だと思っています。本の企画が成功する・しないというのもそうですし、仕事がうまくいく・いかないということもそう。ビジネスだけの話じゃなく、国の未来というようなことも含めて、「天地自然の理を外れては何事もうまくいかない」という確信を持っています。だからこそ、まっとうなことをしようと。先述した通り、誰かを傷つけるような本ではなく、誰かを勇気づけ、助けるような本を出していきたい。それが天地自然の理に則ることだと思っているわけです。

その一方で、旧態依然としていてはよくない、という思いもあります。松尾芭蕉の「不易流行」という言葉がありますね。「不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」と述べられているものです。「いい句を詠むには不易(伝統)を知らなければならない。だが、新しい句を詠むには流行を知ることも重要だ」という意味なのですが、確固とした美学を持ちつつ、その上で「流行」、つまり新しい技術や文化にアンテナを張り、柔軟に変化していく必要もあるというわけです。

流行といえば、日本のコミックやアニメはいま世界中で大人気ですね。ただ個人的には、その人気は必ずしもキャラクターや絵柄の魅力だけではなく、作品の根底に流れる日本独自の「義」のようなもの、つまり信頼や友情、自己犠牲、あるいは物質主義の否定といった部分にもつながるのではないかと思うんです。そういったテーマの本を、例えば電子書籍のフォーマットで各国に発信すれば、また新しいマーケットが開けるかもしれない。

世の中の動きを見、新しい技術も取り入れ、これまでに培ったノウハウを活用しながら新しいものを生み出していく。肌の色や話す言葉が違っても人間の根本はそう変わらないのと同じで、よいコンテンツならば、紙だろうがデジタルデータだろうが、あるいはマンガだろうが本だろうが、きっと受け入れてもらえると思っているんです。

世界最大のブックフェアに参加して、わかったこと

「不易流行」の考え方にもとづき、日本の出版業界の常識にあえて乗らないこともサンマーク出版では多々あります。その一つが、国内のブックフェアとの関わり方です。ブックフェアと聞くと、「本の安売り市」のような印象を持つ方もいらっしゃるかもしれません。実際、そういった趣旨のブックフェアもありますし、私たちも出展した経験はあります。ただあるとき、こんなことを思った。「バーゲンして本を売って、それでいくらかの売上になったとして、一体何になるんだろう」と。未来志向のものがないように感じたのです。他の国の出版業界はどんなブックフェアをやっているのだろうか。そこで我々は、実際に各国のブックフェアに行ってみることにしました。アメリカ、ロンドン、北京、台北。その中でも特に印象的だったのは、「世界最大の本の見本市」とも言われる「フランクフルト・ブックフェア」です。

ドイツで行われるこのブックフェアに当社が社員を送り込んだのは1997年が最初です。今では随分有名になって「世界のイチロー」なんて呼ばれたりもする武田伊智朗という編集者に、なんの伝手もない状態で行ってもらいました。1年目は当然、何の成果もなかった。次の年になって武田が「今年はフランクフルト、どうしましょうか」と聞くのです。私は「今年もぜひ行ってきてくれ」と答えました。具体的にどんな成果に結びつくかはまったくわからない。でもとにかく、世界のマーケットに体当たりで臨まなければ未来はない、という思いがあったのです。数年後、私自身もそのフェアに参加することができたのですが……それはもう強烈なインパクトを受けました。

人種も言語もさまざまな世界中の出版社やエージェントが集まり、ライツ(版権)の売買のために真剣勝負をしていました。「この作品をウチから出させてくれ」「いや俺たちに売ってくれ」という交渉です。その必死な様子を目の当たりにして、「ああ、私たちもこういう勝負がしたい」と強く思いました。本そのものをいかに安く売り買いするのではなく、本の精神ともいえる「権利」を売買する。その金額はときに何百万円、何千万円にもなります。当然、ビジネスの規模がまったく違う。交渉にも熱が入るはずです。

印象的だったのは、ライツを売る側である版元が「ミッション」を明らかにしていたこと。ミッション、つまり、「私たちはこういう使命のもと本を作っているんだ」ということを、それぞれのブースに掲げているわけです。この本を通じて社会をこうしていきたいんだ、それを理解してくれる会社にライツを売りたいんだということをハッキリ発信していた。「そうだよ、これだよ!」と気づかされました。

なんのために本を売るのか。
本の "何を" 売りたいのか。

最後は結局、「その本にどれだけ気持ちを込めたか」

多くの書籍に関わってきて改めて思うのは、「人間とは悩める生き物だ」ということです。思っている以上に皆、いろいろなことで悩んでいる。例えば以前、『小さいことにくよくよするな!』という本を出しました。リチャード・カールソンという人が書いたもので、日本だけでも累計170万部以上、世界で合計すれば何千万部と売れている大変なヒット作なんですが、これを92歳のおばあちゃんが読んで、大変感動したと。「明日からクヨクヨしないで生きていきます」という葉書が届きまして、ああ、人間ってすごいなと思いました。90歳を過ぎてもなお、そうやって本をキッカケに「明日からはこう生きよう」って思えるって、素晴らしいじゃないですか。僕らの事業は、そういう人間の根本的な部分に繋がっている。

だからこそ、いわゆる「マーケティング」というものに頼りすぎてはいけないと思っています。どれだけ市場調査をしても、どれだけ緻密にデータを分析しても、ヒットする作品を必ず生み出せるわけじゃない。どの観点で見ても完璧だというレベルにまで仕上げたのに、全然売れなかったという話は当たり前にありますから。上で挙げた「ヒット作の共通点」というのも、言ってしまえば結果論にすぎない。最後にはその本に「どれだけ気持ちを込められたのか」という、なんとも泥臭い部分が重要だったりするのです。

当社には、あるユニークな制度があります。「編集者特権」という言い方をしますが、ある編集者が企画を持ってきて、それを編集長なり私(社長)なりがダメだと言ったとしましょう。一度突っぱねたとする。でも、編集者本人はどうしてもやりたい。その企画で本をつくりたい。そういう場合、1年に1冊に限ってはOKする、編集者の気持ちを汲んで出版させようというのが「編集者特権」です。もちろん、サンマーク出版の美学に明らかに反するものはダメですよ。でも、その範囲内にあり、かつ編集者が本気なら、それはきっといい本になるだろうという期待もしたいわけです。実際、この「編集者特権」を使って本を作り、それがヒットしたという例もたくさんあります。

たとえば、67万部の大ヒットとなった小説『コーヒーが冷めないうちに』も「編集者特権」によって生まれた作品です。なんと2018年9月には有村架純さん主演で同名の映画が封切りされることが決定しています。

サンマーク出版が
求める人材とは?

いろんなタイプの人がいたほうがいいと思いますね。そのほうが幅広い観点の本が作れるでしょう。そもそも生命界というのは多様性に溢れたもの。全員が右へ倣えで、同じことをしている状態はむしろ不自然です。だから会社にも、ちょっと抜けているメンバーとか、先走っちゃうメンバーとか、いろんな人がいていい。結果がハッキリ出てしまう厳しい世界ですから、もちろん間違えることもあるし、失敗することもある。その時は素直に謝ればいいだけでね(笑)。

サンマーク出版の文化として、「次のヒットは、けったいなものの中から」というのがあります。生命界でも、次世代を担っていくのは独自の方法で環境に適応できる個体。つまり、それまでの常識に照らせば「けったいなもの」なんです。だから本のテーマにしても、人の採用にしても、多様性を大事にしようと。紙の試験なんかじゃわからない個性が一人ひとりにあるはずで、その個性を活かしつつ、これからの時代の本づくりを進めていけたらと思っています。関わる人によって本は変わる。それもまた、「天地自然の理」なんでしょう。




ライター:児玉 達郎

(インタビュー内容は2018年3月の内容です)