新しい価値観で社会を進化させたい。

世の中の不和を解消する
新しいあたりまえをつくりたい。

2006年、わずか4名で産声を上げたインターネットベンチャーの株式会社リブセンス。創業者の村上太一は、当時早稲田大学1年次在学中の19歳。若き経営者は、斬新なビジネスモデルで人材業界に新風を吹き込み、史上最年少(25歳)で東証一部に上場。ミレニアル世代を代表する経営者の一人として注目を集め、着実に成長を遂げてきた。創業から12年が経ち、自らも30代に足を踏み入れた村上氏。ビジョンとして掲げているのは、「あたりまえを、発明しよう。」。どのように新しいあたりまえを発明していくのか。

真価を問われるのはこれから

大学1年の時にリブセンスを設立して、今年で(2018年)で12年目を迎えることができましたが、正直、自分ではまだ何かを成し遂げたという感覚はありません。もちろん創業時と比較したら、会社も経営者としての自分も成長したとは思いますし、上場を果たすこともできました。でも起業当時に胸に秘めていた志からすると、まだまだ社会への貢献度合いは低く、会社も事業も思い描いている基準にはまったく到達していません。それこそGoogleやAmazonといった企業と比較したら、足元にも及ばない会社です。創業以来の最も大きな成果は、いまも会社が残っているということではないでしょうか。生き残ることができたこのリブセンスという企業を、どこまでスケールできるのか、世の中にとって必要な存在にしていけるのか。真価を問われるのは、本当にこれからだなと思っています。

幸せとはなにか?
がリブセンスの原点

社名のリブセンスは、LIVE(生きる)SENSE(意味)を掛け合わせたものですが、きっかけは幼い頃の記憶にまでさかのぼります。物事の根本を考えるのがとにかく好きで、なぜ人を好きになるのか、人が死ぬとどうなるのか…、答えのない問いに対して思索を巡らし、自分なりの答えを見つけるまで考え続ける。そんな子どもでした(笑)。そんなふうにいろんなことを自問自答していくなかで、ある時「人は何のために生きているのか?」と考えたんです。浮かんだのは、「人は幸せに向かって生きている」ということ。では、幸せとはなんだろう?と自分が幸せを感じる瞬間を思い返してみると、それはいつも家族やまわりの人たちなど自分以外の誰かが笑顔になってくれた時でした。より多くの人たちを幸せにできたらいいな、社会の幸せの総量を最大化できたらいいな。そんな思いが募っていき、尊敬する両祖父が経営者だったということもあり、事業を通じて世の中に良い影響を与えることができたらかっこいいなと考えました。小学生の頃には、経営者になることを意識していたように思います。

哲学的なことを真剣に考えてしまうような、ちょっとへんな子どもでした(笑)

ビジョンを体現した
新しいビジネスモデル

会社を設立して最初に立ち上げたサービスは、『ジョブセンス』(現マッハバイト)というアルバイトの求人サイトです。人材領域を選んだのは、当時の自分にとって働くことが身近だったことと、社会的に大きなインパクトを与えられる領域だと考えたからです。この2つの軸は、その後に立ち上げた不動産領域や医療領域など新しい事業にチャレンジする際の基準になっています。

人材領域には、大手企業をはじめ既存のプレイヤーたちがしのぎを削っていましたが、私はチャンスがあると思いました。なぜなら紙からスタートした人材領域のビジネスモデルが、インターネットの登場によってイノベーションのジレンマに陥っており、企業と応募者双方に様々な歪みや不和が生じていたからです。後発のメリットを活かし、私たちにしかできないことをやれば勝負できると考えました。それが「成功報酬型」と「採用祝い金」というアイデアを盛り込んだ新しいビジネスモデルでした。求人を掲載する企業からは採用が決まって初めて対価を受け、採用が決まった求職者には祝い金を支払う。それは掲載料収入をベースとしている既存のビジネスモデルでは容易にはできないことであり、私たちがフィロソフィーとして掲げる「幸せから生まれる幸せ」、つまり事業を通じてお客様を幸せにし、結果として私たち自身も幸せになろうという考え方を体現するビジネスモデルでもありました。結果として、この考え方はマーケットに受け入れられ、創業期から今日までの成長の原動力になりました。

もちろん、私たち自身も常にイノベーションのジレンマにさらされていることを忘れてはいません。いまは情報が完全にコモディティ化しているので、これからはユーザーの本質的な価値を高めるサービスをいかに生み出せるかが勝負になると考えています。2017年に、創業メディアである『ジョブセンス』を『マッハバイト』にリブランドしたのもこうした背景からです。名称からイメージできる通り、このサイトは「すぐ」をコンセプトにしたもの。「早く仕事が決まる」「早くお金がもらえる」ということはユーザーにとって最も本質的にアルバイト求人メディアに求めていることだと考えています。

ユーザーにリアルな幸せを提供する

私たちが考える本質的な価値とは、「リアルな世界で感じることができる幸せ」です。言うまでもないことですが、人間が生きているのはバーチャルな空間ではなく、リアルな世界です。ITは本来このリアル世界における幸せの価値を高めるためにあるはずですが、現状はそこまで至っていません。テクノロジーが単純にクリック数を増やすことに使われていたり、データの活用についてもオンライン上の行動ログを使ったアクセス解析の域に留まっていたりするケースがほとんどです。求人広告に応募するにせよ、何かモノを買うにせよ、行動を起こしたあとのことまではわからない。サービスを利用することでどれくらい満足したのか、さらにはもっと広い意味でそのサービスは社会に良い影響をもたらしているのかまで追うことはできないのです。私たちは、そこに踏み込みたい。またそれができるポジションにいる会社だと思っています。

ITの進化を、ITの世界だけに留めておくのではなく、ユーザーが幸せと思えるようなサービスにつなげて、人が生きているリアルな世界の幸せを実現していく。私たちが、自社の技術を「理念を実現するための技術」と位置付けているのは、こうした理由からです。そして、その実現のために注力しているのが、私たちがリアルデータエンジニアリングと呼んでいるデータ活用の新たな取り組みです。

リアルデータエンジニアリングが可能にするもの

リブセンスでは、以前よりサイト上のユーザー行動を記録した独自のデータベース構築に取り組み、その成果をサービスに反映させることで、ユーザー体験の向上に努めてきました。とはいえサービスの利用体験において、オンライン上の行動は氷山の一角でしかありません。

リアルデータエンジニアリングが取り扱う「リアル」は、オンライン上にあるデータに限りません。これからは私たちが活かし切れていなかったサイト外でのユーザー体験や、そもそもオンライン化されていないデータの取得・分析に注力していきます。たとえば求人情報のサービスであれば、オンライン上のアクセスログやクリックデータ等に加えて、応募者が現実世界で体験する採用・不採用の結果やその理由、就職先の満足度、採用後の勤続年数などのデータをサービス改善に活かすことができるようになるでしょう。広告を掲載するのみではなく、人材の採用までを追う成功報酬型のビジネスモデルだからこそ、求人企業・求職者双方のその後にもアプローチできるのです。このほかにも取りたいリアルデータはまだまだあります。リブセンスが目指しているのは、ネットとリアルを断絶させず、ユーザーを包括的に捉えたデータの収集・解析を行うことで、現実世界の幸せにつながる“圧倒的な”ユーザー体験をつくりだすことなのです。

事業の10年から、
組織の10年へ。

技術力の向上と並行して取り組んでいるのが、組織力の強化とそのための仕組みづくりです。起業からこれまでは、とにかく事業をカタチにし、ひらすら磨いてきた「事業の10年」でした。しかし、企業規模も大きくなり、これから事業をスケールさせていくためには、強くてしなやかな個からなる組織力が不可欠です。そこでリブセンスではこれからの10年を「組織の10年」と決め、いまはそのための土台となる仕組みを1つ1つつくり上げているところです。

仕組みづくりにおいて重要視しているのは、他社の仕組みをそのまま取り入れるのではなく、リブセンスのビジョンや価値観に紐づけること。まずはリブセンスが大切にする「圧倒的な当事者意識」「やり切る姿勢」「学び続ける姿勢」などの価値観を言語化し、それらを制度などの仕組みに反映させていくやり方で進めています。たとえば人材を1つの部署に留めることなく、新しいことに積極的にチャレンジし能力を発揮できるようにするキャリアチャレンジ制度、あるいは社員のコンディションを月ごとに把握し、何かあれば人事部がフォローできるMonthly What’s up?と題したアンケートなど、リブセンスらしい仕組みや制度が少しずつ見える形になり、運用され始めています。

人は、自分がいる環境に左右されてしまう生き物です。リブセンスが目指すのは、現状に満足することなく新しいものがどんどん生まれ、つねに高みを目指せる組織。いま進めていることがカルチャーとして根付いたら、次のステージも自然と見えてくるはずです。

へんなところがある企業・経営者であり続けたい

経営者にはいろんなタイプがいますが、私は自分のことを事業家タイプだと思っています。子どもの頃からアイデアを考え、それをカタチにしていくことに喜びを感じてきました。でも上場してからは、意図的にそんな事業家としての自分を抑えて、自分のアイデアだけでなくまわりの人たちの意見を聞いて事を進めてきたケースもありました。もちろんそれは会社経営において大切なことなのですが、一方でつい無難なことに流れてしまいがちでもあります。つまり、変化を避けたり、やらなくなってしまうのです。私は、そういう会社、経営者ではやっぱりつまらないと思っています。世の中を大きく変えるサービスは、やっぱり一人の変人の思いつきから生まれているものもあるのです。私は、自分自身では変人の要素を持った人間だと思っています(笑)。これからは自分への縛りを解き、事業家としての変人の部分ももっと出していこうと思っています。

事業家の血が騒ぐのは、私たちの社会が大きな転換期にあることと関係しているのかもしれません。スマートフォンの普及などによって人々の生活は便利になりましたが、行き過ぎた資本主義の歪みもいたるところに表出しています。国内を見ても、未来への不安の方が大きく、幸福度も決して高いとは言えないでしょう。その一方で、私たちミレニアル世代がそうであるように、幸せの価値軸がお金ではないものに代わっていく過渡期にあるように思います。そして、仮想通貨をはじめその動きを後押ししていくようなツールとなりうるものも次々と登場している。そんななかで、私たちの国や社会が新しい時代の先端に行けるかどうか試されているのが、いまではないでしょうか。

環境や教育をはじめ、課題を抱えている領域はたくさんあります。リブセンスとして、ぜひとも取り組んでみたいテーマもあります。だれもがあたりまえだと思っている世の中の常識や仕組みを疑い、課題の本質を見極め、テクノロジーを駆使して解決していく。私たちが生み出す新しいあたりまえが、これから向かうべき正しい社会の力になれたら嬉しいですね。

ライター:佐藤 康生

(インタビュー内容は2018年5月の内容です)