感性が共鳴する
プラットフォームづくりを。

日本におけるグロッサリーの先駆けとなったDEAN & DELUCAをはじめ、GEORGE'S、CIBONE、TODAY'S SPECIALなど、感性を大切にした良質なライフスタイルショップを手がけるWELCOMEグループ。その根底にあるのは、丁寧に想いを込めてつくられたものと、日々丁寧に生きたいと願う生活者とを結び、互いの感性を共鳴させること。知的好奇心を持って日本や世界を巡り、それぞれの地域のつくり手と出会い、そこに息づく文化とともに、美意識の琴線に触れるものを日本に紹介しています。

食とデザインを主軸に日本国内で活動を続けてきたWELCOMEグループですが、現在その事業領域は、衣食住という域を超え商業スペースのリノベーションや不動産事業へのコンサルティングを通した街づくり、さらには海を超えて世界に向けて日本を発信する機会も増えてきました。そんなWELCOMEグループが目指す「世界に誇る、新しい日本のくらし」とは何か?創業者であり代表の横川正紀氏にお聞きました。

オーストラリアでの
原体験を求めて、京都へ。

私は東京の国立市に生まれ、日本にファミリーレストランを初めて紹介した『すかいらーく』の創業者の一人が父親という家庭に育ちました。父はいつも忙しそうでしたが、新しい店舗ができたりすると、家族を連れて行ったりしてくれていましたね。恵まれた環境だったと思います。でも高校に通うようになると、自分を取り巻く環境を堅苦しく感じるようになっていきました。学校も、アルバイトも、この国もなんだかつまらない…。今から振り返ると、とても傲慢な考え方ですが、とにかく日本を飛び出したかった。

いくつかの候補の中から留学先として選んだのは、オーストラリアでした。しかも、到着してみたら信号機もないような小さな街。やれやれ、さぞかし退屈な生活なんだろうな。そんな気持ちで始まった新しい生活でしたが、暮らしてみるとまったく逆。毎週末にはお父さんが自宅でバーベキューを開催し、庭に集まった親戚や近所の人にお母さんがケーキをふるまうというような、自分たちのコミュニティーを大切にしながら、毎日を丁寧に生きている人たちがいて、心豊かな暮らしがあったのです。新鮮でしたし、もの凄いカルチャーショックを受けました。

その経験は、日本に帰ってきた私の行動を変えることになります。もっと日本を感じられる場所に身を置きたい。その想いから、東京を離れて京都の大学に進学することを決断したのです。実際の京都はオーストラリアの田舎町と違って都会でしたが、一歩裏通りにはいると、そこには同じように色濃いコミュニティーの世界が広がっていました。

出会うたびに繋がっていく夢。

意外に感じるかもしれませんが、実は、京都は日本で一番パンの消費が多い土地です。伝統を重んじつつ、新しい文化も進んで受け入れる。それが、私が見た京都という街でした。私は大学に在学しながら、もっと京都に馴染みたくてボランティアに積極的に参加しました。そのおかげで、さまざまな人たちと関わることができ、この街の成り立ちを学ぶことができました。中でも一番良い経験となったのは、地元の自治体が2年もの時間を費やして開催した建都1200年というイベント。それは、昔ながらのお寺さんやお茶の先生のイベントがある一方で、クラブ系や若い人たちのアートや音楽のイベントも同時に開催するという画期的なものでした。このイベントを通して、本物のコンテンツとコミュニティーがあれば、SNSのない時代に人脈と口コミだけで500人、1000人がひとつのイベントに集まってくれることを経験することができました。

大学卒業後は、印刷会社に就職しました。といっても、担当したのは本業ではなく新規事業。アメリカに本社があるインテリアショップの日本での事業展開に携わりました。残念ながらプロジェクトは3年で撤退することになりましたが、この分野に可能性を感じ、自分でインテリアショップを開店したいという思いが強くなりました。ただ、自分には日本での仕入れの経験がない。そこで教えを乞うたのが、学生時代に大好きで良く通っていた京都のお店のオーナーである天野譲滋さん*でした。私たちは意気投合し、WELCOMEグループの原点であるGEORGE'S FURNITUREを設立。「これから求められるのは、モノ単体ではなくライフスタイル。そのためにはエディトリアル(編集力)が重要になってくるよね」そんなことを、いつも話していましたね。

*天野譲滋(GEORGE AMANO)株式会社ジョージ・クリエイティブ・カンパニー代表取締役社長/デザインビジネスプロデューサー 京都生まれ。京都修学院でインテリアショップ「GEORGE'S FURNITURE」を立ち上げ、その後デザインを切り口にさまざまな分野でビジネスを成功させている。

DEAN&DELUCAとの出会い。

あまり日本では馴染みがありませんが、グロッサリーとは、食材はもちろん、デリなどの中食から生活雑貨まで幅広く扱い、街の中核となるような存在のお店です。数ある中でも一番心惹かれたのが、ニューヨークのソーホーで訪ねたDEAN & DELUCA。「こんなお店を日本にもつくれたらな」と、みんなで盛り上がっていたところ、知り合いの方に日本で事業展開する話が舞い込んできました。まさに渡りに舟でした。2002年、DEAN & DELUCA JAPANを設立。そして、創業者のデルーカさんと会います。この出会いは私にとって衝撃的なもので、ここから自分たちの骨格ができたと言ってもいいと思います。

デルーカさんからはブランドのあり方を教わりました。「ブランドとはどういうもので、どのようにつくっていったらよいのか」ということです。生まれてからすでに40年近く続くブランドであるDEAN & DELUCA。その根幹にあるのは、デルーカさんがイタリア人の父親から受け継いだイタリアの食と食文化です。教育者でもあったデルーカさんは、自分が子どもの頃から感じていた食の豊かさを通して、アメリカの人たちに本物の豊かさを届けたいと思い、そんな志からDEAN & DELUCAは生まれたのです。ルーツがしっかりとしているからブランドとしてのブレがない。イタリアからはじまり、世界中に伝わる歴史ある食文化をアメリカの食卓に届けること。そのルーツは、世界中の市場であり、主役は食そのもの。だから空間やパッケージもシンプルでありながら、その素材にはしっかりこだわる。そして、創業以来ロゴもブランディングカラーも一度も変えていません。こうしたブランドに対する一貫した姿勢があるからこそ、ソーホーの小さな店舗が世界中に広がり、ファンをつくることができたのです。

そんなデルーカさんに「日本の店舗には蕎麦は置かないのか?」と聞かれて、我に返りました。時代も場所も違うアメリカを真似するのではなく、そのルーツを学び、同時に自分たちのもつ財産=日本の食文化の豊かさを再認識し、世界の食と合わせて本物の豊かさを届けていくことに立ち返ることができたのです。

良質なつくり手と
生活者をつなげたい。

さまざまな文化に触れ、知見を広げるうちに、ひとつの想いが沸き上がってきました。「正直者が報われる時代をつくりたい」という想いです。私たちの心に響くような良質な商品をつくるには、どうしても手間と時間がかかり、その結果価格も高くなります。しかし、効率化が優先される経済合理主義の社会では、こうした正直なつくり手は生きづらく、我慢を強いられるケースも多い。それは、特定の誰が悪いとかではなく、世の中全体がそれを許してしまっていたからです。私たちが彼らの「伝え手」「結び手」になることで、こうした世の中のあり方を少しでも変えていけるのではないか。ここに気づいた時、本当の意味で自分たちのルーツを得た思いでした。この考え方は、現在WELCOMEグループが掲げるビジョン「世界に誇る、新しい日本のくらしをつくる」。そして、それを実現するためのミッション「感性の共鳴-美しい考えは人を美しくする―」につながっています。

WELCOMEグループは、店舗を持つ立体的なメディアです。大きなメディアが伝えきれないことを様々な形で丁寧に世の中に伝える。私たちは、WELCOMEグループを感性の共鳴を求める人たちが集うプラットフォームにしていきたいと考えています。

食とデザインを軸に
広がる地図

WELCOMEグループのルーツを探していく中で、不思議と自分自身のルーツとなる父親のことをよく考えました。父親が創業した『すかいらーく』は、高度経済成長期の日本にファミリーレストランという新しい食文化を紹介し、ひとつの時代をつくった。そして、時代的背景もあり、数千店舗へと拡がりました。しかし、今はSNSなどを含めた発信力などを上手に使えば、規模を追うことなく、社会的な影響力を持てる時代です。

現在、WELCOMEグループは、食とデザインを主軸にさまざまな業態を展開していますが、主力事業であるDEAN & DELUCAがちょうど売上100億円位の規模になってきています。この壁を突破することができれば、300億も視野に入ってくるでしょう。しかし、そこからDEAN & DELUCAだけをさらに大きくしていきたいという考えはありません。量を追うことで質が担保できない恐れがあるからです。ほかの業態にもそれぞれ適性規模があります。量と質のバランスを見極めながら、事業自体を変革し、磨き続けたいと考えています。

そのため、既存の事業だけでは成長に限界があり、社員が活躍するフィールドも限られてしまうので、新しい事業の可能性は常に模索しています。2010年からは、食とデザインの経験とネットワークを活かして空間デザインやマーチャンダイジング、ブランディングなどのコンサルティング事業をはじめました。今では街づくりや地域創生プロジェクトなどに参加するまでになっています。

食とデザインを超えた領域も視野に入れています。例えば、教育・学校事業。WELCOMEグループの考え方やノウハウを学びたいという声は結構あって、このニーズを発展させていけば、事業のもう一本の柱にすることができるのではないかと考えています。価値観が同じ相手とコラボレーションするのか、M&Aなのか、あるいは自分たち独自で10年かけてフルスクラッチでやるのか。やり方についても、さまざまな可能性があります。

海外事業については、現在外務省が主体となって進めている『JAPAN HOUSE』に参画しています。日本の文化を海外に発信するショーケースをつくろうというプロジェクトで、WELCOMEグループとしてロンドンとロサンゼルスで現地法人を設立しました。今、日本と世界は、ねじれの関係にあると思っています。「世界から見た日本」「世界に発信している日本」、どちらもどこかおかしい。きっと編集の仕方が間違っているのだと思います。私たちのこれまでの経験を生かしながら、このねじれ状態をまっとうなものにしたい。そのためにはまずは自分たちの国をきちんと知ることから始めよう。そう考えて47都道府県に足を運び、地元の人たちの話を聞きながら旅しているところです。

ビジネスとしての可能性に
共鳴してくれる人に会いたい。

ネットではなくリアルな場を事業の中心に据えている私たちにとって、唯一の資源は「人」です。これまでも成長のステージに合わせて、教育・研修には積極的に投資を行ってきました。こうした姿勢はこれからも変わることはありません。ただ、求める人材に関しては変わってきています。今活躍している人材は、「DEAN & DELUCAが好き」あるいは「ワインが好き、家具が好き」といったように、店舗や商品に魅力を感じて入社してくれた人たちが多い傾向にありました。今後はこうした人材だけでなく、WELCOMEグループが持つビジネスの可能性や面白さに魅力を感じてきてくれる人が増えるといいなと思っています。WELCOMEグループの歴史に対してリスペクトしながらも、あらゆることにオープンマインド。複数の事業を横串にして、「これとこれと結びつけたら、こんなチャーミングな事業ができるじゃないか」そんな発想ができる人にぜひ来て欲しい。

京都のボランティアに積極的に参加し、建都1200のイベントを成功させるために街を走り回っていた、かつての私のような若者との出会いを期待しています。


ライター:佐藤 康生

(インタビュー内容は2017年8月の内容です)