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真に価値のある日本の教育を世界に広めたい。

【株式会社すららネット】今回は、現在eラーニング事業で大きくシェアを拡大している株式会社すららネットについて、代表取締役社長の湯野川様にお話を伺いました。

 

湯野川孝彦さん
前職時代、サービス業のフランチャイズ化をサポートする事業会社で、社内事業としてすらら事業を立ち上げ。その後事業をMBOし、株式会社すららネットを設立、代表取締役CEOに就任。

 

学習を楽しませる仕組みで
初・中等教育の底上げを目指す

 

―今日はよろしくお願いします。はじめにすららネットさんの事業内容について教えていただけますか。

湯野川:
我々はEdTech(Education×Technology)と呼ばれるeラーニング教材を全国の小・中・高校生に提供している会社です。BtoCで直接エンドユーザーまで届けるチャネルもありますが、メインはBtoBtoCで学習塾や私立学校を通じて提供する形です。

―すららネットさんの強みは何ですか?

湯野川:
eラーニングならではの様々な先進機能により、学力の低い層に非常に強いという特徴があります。具体的には、生徒に楽しんでもらうための3つの仕掛けがあります。1つ目はインタラクティブ。カリスマ先生による一方通行の授業ではなく、生徒に話しかけるアニメーションによって生徒との間にコミュニケーションが生まれるようにしています。2つ目はスモールステップ。いきなり多くを教えるのではなく、非常に細かいステップで、確実にわかるようにします。3つ目はアダプティブ。一人一人の生徒に適切なレベルの問題を与えることで常にモチベーションを保てるようにしています。問題が決まっていてそれを解かせて生徒を評価、アセスメントするのではなく、問題を生徒のレベルに合わせるのです。こういったマニアックなアルゴリズムがうちのプロダクトにはたくさん詰まっています。

―一般的なオンライン教材や塾とはだいぶ異なりますね。

湯野川:
既存の教育機関の多くは学力がもともと高く家庭も裕福な子供をいい学校に入れることにフォーカスしています。たしかに、その方がビジネスはしやすいかもしれません。ただ、私たちの事業はその真逆です。所得と学力には強い相関がありますから、ここにフォーカスする企業は今までほとんどありませんでしたし、社会的な意義も大いにあると考えました。

―でも、それはビジネスとしてとても難しいのではないでしょうか。

湯野川:
もちろんその通りで、単価はとれませんね。従来はNPO法人などの組織が取り組んできた分野です。ただ、人海戦術でやっていくと全くビジネスにならず寄付を募ったりしなければなりませんが、我々はクラウドビジネスです。ITを活用することで乗り越えられるのです。もともとのシステムの開発や維持には大きな資金が必要ですが、クラウドならスケールに対する変動費用はほとんどありませんからね。

 

「儲からない」eラーニングの常識を覆す

 

―どういう経緯で今の事業を行うに至ったのでしょうか。

湯野川:
もともと私は、優れた個人経営の飲食業やサービス業を、フランチャイズ化して全国に広めるという事業をしていました。今では有名な全国チェーンの焼肉屋やフィットネスもお手伝いさせていただいた経験があります。その中で、個別指導塾チェーンの支援という形で教育事業を始め、ある課題にぶつかりました。従来型の個別指導塾では、成績が思ったように上がらなかったのです。原因は2つで、アルバイトの教師の質が安定していないことと、成績の低い子は特に成績が上がりづらいということです。そういう子は週一回の通塾では足りないのですが、毎日通うとなると月謝がとても高くなるので構造的に解決の難しい問題でした。これらの課題をeラーニングなら解決できるのではないか、と考えたのがきっかけです。はじめは社内事業として取り組み、社会的な価値を感じて後に独立に至りました。

―特に苦労したタイミングはいつですか?

湯野川:
やはり独立した時ですね。大赤字の事業だったので資金調達が必要でしたが、それは私にとっても初めての経験でしたし、リーマン・ショック直後で投資してくれる方もなかなか見つからず、とても苦労したのを覚えています。

―逆に一番嬉しかったのはいつですか?

湯野川:
一番嬉しかったのは、「すららを」作って、その価値を実証できた時です。当時は今のようにEdTechという言葉も使われておらず、eラーニングと言うだけで「儲からない事業」として否定的な扱いを受けていましたから。初めて「すらら」だけで教える塾を作り、オール1の生徒が「生まれて初めて英語の勉強を楽しいと思った」と言ってくれた時は本当に嬉しかったですね。

 

子どもたちに「生きる力」を与えたい。

 

―すららというサービス自体、とても社会的意義のあることだと思うのですが、会社としてはどのような理念をお持ちなんですか?

湯野川:
「教育に変革を、子どもたちに生きる力を。」という理念を持っています。教育と経済力の格差をテクノロジーを用いて解決すること、そしてそれを通じて子どもたちに生きる力をつけてもらうことが目標です。

―昔から一貫してその理念を掲げているんですか?

湯野川:
いえ。やっているうちにだんだん学力の低い層への教育に課題があることがわかってきて、5年前に社員全員で改めて理念を定め直しました。うちは会社全体に理念が浸透していることをとても大切にしていて、新しく入社する方達にも第一に理念の共感を求めています。
ただ同時に、理念とは会社全体の目標とも言えますが、企業が環境に適応していく上では不変のものである必要は全くないと思っています。たまに見直しをして、変わっていくのは当然ですし、常に一人ひとりの社員が自分ごとで語れないと理念の意味がないので、必要と感じればまた全員で作っていくべきだと考えています。

―理念の「生きる力を」という部分のお話をもう少しお聞かせください。

湯野川:
子どもたちに「生きる力」が身につくような教育コンテンツづくりをしています。「生きる力」という話で我々が一番大切と考えるものは、「努力をすれば結果が出る、ということへの確信」です。「努力と結果が心の中で結びついていること」とも言えます。努力と結果の随伴性認知とも言うのですが、世の中で成功する人は皆、やれば結果を出せると知っているから頑張り、結果を出すのです。その認識がなければ、いろんな理由で諦めてしまい、努力できず結果も出ない。そこをまずは変えたいのです。勉強における一番の障壁は、努力の量を可視化できていないことです。努力とは「時間」とも言えると思うのですが、eラーニングではその時間を可視化することができます。「すらら」では勉強した時間とその成果を数字で見ることができるので、自分の努力に自信を持てるようになるのです。その自信は、長い目で人生を見たときに、1つ1つの科目の内容以上の重要な意味を持ちます。「すらら」のコンテンツは、この努力と結果の結び付けという裏目的を持っていて、「すららカップ」というイベントもこれを象徴しています。これはお勉強のコンテストですが、競うのは成績ではなく勉強した時間です。不登校だった子が、有名な超進学校の生徒と総合学習時間で競い合い、全国表彰され、英語が好きになって学校に戻ったこともありました。

 

世界中の初等教育に変革をもたらしたい

 

―今後のビジョンを教えてください。

湯野川:
今伸びていて、今後も強化していきたい部門は2つです。一つは直接エンドユーザーに届けるBtoCのチャネルです。これは一昨年ごろからリリースした、発達障害や学習障害に対応した小学校低学年向けのコンテンツが、想像以上にニーズがあることがわかったことが一因です。

もう一つは海外進出で、こちらはすでにスリランカ、インドネシア、インド、フィリピンで展開しています。「Surala Ninja!」といい、どの国でも親しまれる忍者のキャラクターと一緒に、数の数え方から四則計算を学べるコンテンツです。スリランカとインドネシアはJICAの支援スキームの採択も受けていて、今後はエジプトでの活動も決まっています。すららはもともと学力の低い層の教育に強いという特徴で日本に広がっていますから、新興国、途上国の子どもたちにも同様に良いのではないか、という考えでこういった展開をしています。発展途上国では単純な計算や言語の知識がないだけでとても不利なので、そういった意味でも「生きる力」にも直結します。スリランカでは、BOP(Base of the Pyramid)と呼ばれる層に向けて、現地の女性銀行と組んでスラム街のど真ん中に塾を建てました。スリランカにはチェーンの塾はないので、スリランカ最大の塾チェーンと言えますね。ビジネスという面でも、日本での市場が1千万人程度なのに対し、スリランカ、インドネシア、インドの3カ国では3億5千万人程度はいるという事実もあり、期待値は大きいです。

―インドというと、水準の高い教育でIT人材を大量に生み出してるイメージがありますが、実態は違うのでしょうか。

湯野川:
人口が12億人で、しかも若い人が多いですから、その中の超エリートともなると二桁×二桁の掛け算を暗記で憶えていますが、そのような人たちはごくわずかなんです。逆に読み書きもできない人たちや、巨大なスラム街の子どもたちは大きく取り残されている現実があります。英語によるオンライン高等教育はすでに欧米系企業の進出が見られるのですが、初等教育で、現地語で数を数えるところから、という分野での競合は全然ないので、「すらら」を広める価値は大きいと思います。今はASEANや南アジア中心の展開ですが、今後はエジプト、つまり中東やアフリカにも広めたいと考えています。こういった教育が広まることが、最終的には発展途上国のGDPの底上げにも繋がると思いますし、日本も愛されると思います。

―日本の教育に対してはどのような印象をお持ちですか?

湯野川:
課題感としては、日本の先生たちは優秀で意識も高いですが、古来寺子屋から始まる歴史ゆえに、教育のICT化という大きな流れにはかなり抵抗感がある方も少なからずいらっしゃる気がします。文科省をはじめとする国の方針や、学校トップの校長先生はデジタル化の方針を持っていますが、現場の多くの先生方はまだまだそこに馴染めていません。一方、海外展開をしていると、逆に日本ならではの良さも再認識することができます。カリキュラムはよく出来ていますし、教科書はカラフルで見やすいデザインだと思います。教え方も練り上げられていて優れていると感じますね。それに、日本の教育ならではの、掃除や給食、日直制度なども価値が高いと思います。いま、文科省も日本型教育の海外展開事業をしていて、EDU-Portと呼ばれる国家プロジェクトもスタートしています。アニメやJ-pop、ラーメンだけでなく、教育にも日本固有の良さが見出され始めています。先ほどお話ししたスリランカの塾でも、科目だけでなく礼儀作法や挨拶、後片付けなども同時に教えていて、すごく好評です。そういった日本文化の側面もあって、日本の教育は優れていると思います。

―日本の優れた教育を、国内だけでなく途上国にまで波及させる意味を持ったすららネットさんの事業は、本当に大きな社会的価値を持っていると強く感じました。本日はありがとうございました。