
今回はこんにゃくの製造・販売を手掛けている、サン食品株式会社の代表取締役・加藤三基男さんに、こんにゃく作りへの思い、今後のさまざまなビジョンについてお話をお伺いしてきました。
加藤三基男さん
創業90年のサン食品株式会社の代表取締役社長。こんにゃくの可能性を信じ、様々なこんにゃくを使った製品を開発し続ける、チャレンジ精神にあふれた研究家です。
―今日はよろしくお願いします!
まずは会社の概要から教えていただけますでしょうか?
: 主にはスーパーマーケット向けのこんにゃくと、ところてんを作っています。うちは今年で創業してからちょうど90年です。たまたまこんにゃくをつくり始めた私の祖父から、父親へ、さらに私が受け継いで3代目ですね。
―長い歴史があるんですね!こんにゃくは身近な食材ですが、よく知らないことも多くて…。どの様な工程で作られているのでしょうか?
: こんにゃくの作り方は大きく分けて三段階に分けられます。 ①こんにゃく芋を皮付きのまま蒸し、ペースト状にすりおろしたら、色を調整するためのひじきの粉末を混ぜ込みます。
: ②次にこんにゃくを固めるための水酸化カルシウムを加え、こんにゃくの元を作ります。
: ③最後に袋づめし、袋ごと茹で上げることで完成します。
―こんにゃくを食べることはありますが、色味の調整でヒジキの粉末が使われていることは初めて知りました!
: こんにゃく芋は自然のものなので、いつも同じ色味でできあがるとは限らないんですよ。だから、品質を安定させ、購入していただくお客様に安心していただけるようにしています。いつも同じ品質の製品を供給することは、食品メーカーとして大切な仕事のひとつですね。
―いつも同じ品質の食材を食べられることも、当たり前ではないんだと気がつきました。
―こんにゃくの特徴はどんなところだと思いますか?
: こんにゃくの最大の特徴は、食べ応えがあるのにカロリー・糖質がほとんどないことです。液体ではないのにカロリー・糖質が少ないという食材は海外にはあまりなくて、日本特有のものなんですよ。原料はほとんどこんにゃく芋だけ。97%の水と3%の食物繊維でできているので、腸内環境を整える効果もあります。
―こんにゃくの特性をサン食品さんではどのように活かしているんでしょうか?
: 最近は、低カロリー・低糖質の機能をダイエット食品に応用しています。ごはんやパン、麺など、様々な食材に加工できることが、うちの強みでもあります。どの製品も、本物とほとんど遜色のないものが作れるんですよ。
―こんにゃくは機能性食品としても可能性があるんですね。
: はい。しかし、以前はこんにゃくが日本以外で広まっていない現実もあったんですよ。
―可能性がある食材なのにもったいないですね。
: なので、世界の人にこんにゃくを食べてもらい、その可能性を広めたいという気持ちがありました。サン食品に入社した直後にアメリカに渡り、試行錯誤したんです。そのときは業界の中でも先駆けでしたね。
―具体的にはどうやって広めていきましたか?
: 食品の展示会に出ていました。当時はこんにゃくをハンバーグに入れたり、ソーセージに入れたり、回りくどいことをしていました。展示会で試食をすると、タダだからうまいうまいって食べるんだけど、それがさっぱり仕事に繋がらなくてね。一年くらいは毎日心配して暮らしてましたね。
―なるほど、やっぱり新しいことをしようとすれば困難もあるんですね。
: そうだね。ある日、現地の人にこんなことを言われました。 「君はこんにゃくを広めたいみたいだけど、大手の食品会社さえ、アメリカに商品を広めるのに30年かかったんだ。早く帰った方がいい。夢だけじゃ食えないよ。現実をよく見た方がいい。」 あの時はすごく悔しかった。悔しくて悔しくて、どうしたらうまくいくか、現実を直視するって何だろうって考えて、気づいた。 「アメリカ人に売れないなら、まずは日本人に売ればいい」ってね。 その当時でもアメリカに住んでいた日本人はいたんですよ。現地の日本人向けのこんにゃく商品を置くようにしました。結果、それがヒットして、一時はアメリカでのシェアが90%くらいありました。ただ、何年もアメリカにいるわけにもいかないですし、ひとまず日本人向けの販路ができたところで帰国しました。 当時の気持ちとしては、日本にしっぽを巻いて帰ったという話にはしたくないという一心でしたね。世界にこんにゃくを広めたい、絶対やり遂げたいと思っていました。
―その熱い思いがこんにゃくを海外にも広めるための原動力になったんですね。
: とにかく一歩前に出れば、見える景色も変わってくるはずだと信じて、行動し続けていました。『夢だけじゃ食えない』からね。 最初はもちろん、こんにゃくを知らないアメリカ人に売りたいなと思っていたけれど、うまくいかないならやり方を変えなければいけない。結果、日本人向けの販路がいまにつながって、世界にこんにゃくをひろめる糸口になりました。
―苦労して広めているこんにゃくですが、他にも活用方法はありますか?
: 最近はダイエット食品だけでなく、病気への活用も検討しています。やはり糖質フリーという特徴が効いていますね。そもそも人間の体は、糖質をそれほど多く摂取するようにできていないんです。 でも、農業技術の進化によってお米や小麦の生産性が高くなり、糖質を摂り過ぎてしまうようになりました。それが現代では、肥満や糖尿病、アルツハイマーなど、様々な病気の原因になると言われています。そこでこんにゃくの出番が増えてきました。
―なるほど。ただ、お菓子も糖質を多く含んでいますよね?どうして主食中心に商品を開発しているのでしょうか?
: 実はお菓子に含まれている糖質は、人工甘味料を使えば比較的 簡単に抑えることができます。でも、パン、ご飯、麺などに含まれる糖質は、お菓子とは違って原料にもともと含まれているので、抑えるのがとても難しいんです。その上、主食と呼ばれるほどたくさん食べるものです。だから糖質を抑えながら、我慢せず食べられるようにできたらと思っています。
―なるほど、お菓子は甘みを後から足している分、調整しやすいんですね。
: はい、でも主食以外にも開発していますよ。いまはわらび餅などの製品の試作品をたくさんつくっています。
―わらび餅もつくっているんですね!
: ダイエット中でも、糖尿病の方でもそうですが、「甘いものを食べてはいけない」と言われると、どうしても食べたくなってしまいますよね。だから、そうして我慢して闘っている人の思いに何とか答えられないかと思い、つくることを決めました。 よかったらあとで食べていってください。
―こんな製品があったらいいなというものを、たくさんつくられているんですね。
: もともと食品メーカーの仕事の本質というのは、「食べられない人を減らし、食べる喜びを感じてもらうこと」です。戦後の食べ物が少ない時代は、お腹をすかせた人がたくさんいたので、こんにゃくをたくさんつくることが、喜びにつながっていました。量が価値になっていたんですね。 でもいまは、簡単になんでも手に入る時代になりました。食べ物も必要以上にあふれている。たくさんこんにゃくを作っても、昔みたいに喜んでくれる人は少ないですよね。
―たしかに、昔よりも需要は少ないですね。
: それはつまり、時代が変わって「食べられない人」の定義も変わってきたということです。現代には、肥満や病気で食事を制限されている人、宗教的に食べられない人、アレルギーによって「食べられない人」、我慢を強いられている人がたくさんいます。 そういった人たちに、食べる喜びを感じてもらうためには何が必要か?それは、量ではなく機能性です。現代では、こんにゃくの特性が価値になるんです。
―こんにゃくは様々な人にとっての食べる喜びになれるんですね。宗教やアレルギーについて、例えばどんな問題があるんでしょうか。
: 日本にいるとあまり意識することがないんだけれど、イスラム教だったら豚がダメとか、定められた食べ物以外は食べられない人がいますね。うちはユダヤ教徒でも安心して食べられるコーシャ―認定というものを取得しています。 アレルギーだと、セリアック病といってグルテンを摂取できない人もいます。
―世界に目を向けるとこんなにも食べられない人が多くいるんだとわかりました。
: はい、でもこんにゃくはもともと食物繊維と水だけでできていますから、そうした人でも食べられるものを実現しやすいんですよ。
―こんにゃくには様々な人の希望になれる可能性があるんですね。
―将来にわたってさらに取り組んでいきたいことはなんですか?
: いま、糖質制限がガンなどの病気にも有効かもしれないというデータが出ていてね、アメリカでは実際に活用したメソッドがあって、ガンの発症率が下がったという報告もあるんです。 だから、こんにゃくを使ったガンの予防として、まず病気にならないサポートができないかと研究しています。
―どうしてガン予防に取り組もうと思ったんですか?
: きっかけは、僕の友達のお父さんがガンになってしまったことでした。友達のお父さんのガンはステージ4まで進んでしまっていてね、余命3か月って宣告されてしまったんです。
―ガンになっただけでも辛いのに、余命宣告まで…。
: そう、余命が宣告されてしまうと、どうしても希望を持ちにくい。 そのときに思ったんです。闘病生活に少しでも希望をつくれないかと。希望があるのとないのとでは、結果も違ってくると思うんです。
―たしかに、病は気からとも言いますからね。
: ガンで医者から余命宣告されたら、なかなか希望を持てない。とても悲しいことです。でも、もしも、こんにゃくでそれが防げるのなら僕らもうれしいし、患者さんもうれしいよね。だからガンと闘う人たちのためにも、取り組んでいきたいんだ。
―なるほど!それは素晴らしい事業ですね!なぜか僕まで希望が湧いてきました!
実現のためにはどのようなことが必要でしょうか?
: 人と人とのつながりを大切にし、輪を広げていくことが大事だと考えています。 もともと病気の専門家ではないので、一人ではできないことだらけなんですよ。いろんな人と力を合わせ、手を組んで、社員や、会社の枠を越えて、自分たちの技術がどのように活かせるかを考え、実行していきたいです。 そういう意味でも、どうやって情報を発信していくかは、社長である僕の役割だと思っています。発信できれば、より多くの人の目にふれて、新しい仲間が集まってきてくれるかもしれないからね。
―なるほど。新しい仲間というお話がありましたが、採用においてはどんな人材と仲間になっていきたいですか?
: 様々な外的要因に合わせ変化し、適応できる能力を持った人に来てほしいですね。世の中が激変していく中で生き残っていくのは、決して大きな会社や、いま力を持っている会社ではなく、変化できる会社だと考えています。 会社は人の集合体です。変化できる会社をつくるには、変化できる人が集合していることが大事なのです。
―なるほど、そうですね。
: 私自身も新しいことに挑戦して、変化し続けていますよ。10年前は想像もつかなかったYouTuberという職業が出てきたように、将来なにが起こるかは誰にもわかりません。社会の変化に対して敏感に適応できる人が今後も生き残っていく。だからその変化を楽しめる人に来てほしいですね。
―なんでもチャレンジすることが、自分の新しい可能性や、豊かな人生にもつながっていきますね!
: うん!なんでもチャレンジできる君たちみたいな若い子がうらやましいね(笑)
〜編集後記〜
スーパーや家庭でよく目にするこんにゃくですが、昔とは違い、日本に西洋文化が浸透し先進国となっていく過程で、たくさんの変化の荒波にもまれてきたと思います。最近のニュースでは、昔から続いていた商店街やお店がなくなったという話をよく耳にしますが、今も変わらずこんにゃくがあり、昔以上に僕らがその恩恵を受けられているのは、サン食品さんをはじめとしたたくさんの企業様が、変化を繰り返したからだと思います。
加藤社長からは、最後に変化についてのお話をお聞きしましたが、思えば人類誕生以前から、生物というのは変化に変化を重ねており、変化できた種のみが生き残っています。自然界の中に存在しているのであれば、人間社会も同じはずです。
僕は小説や漫画、その他、創作活動で生きていきたいと考えているのですが、社会の変化に合わせて、そのような創作の世界のブームも変化しています。なので社会の変化の波に僕も乗れるように、社会に作品の糸口を見つけていけるように頑張っていきたいと思いました。
こんにゃくの持つ、機能性を生かし従来の食べ方はもちろんの事、常に新しい食べ方、新しい市場を開拓し、弊社の製品の価値を価値として認めていただけるような会社を目指します。こんなのあったら良いな?をキャッチコピーに世界中誰もがなしえなかったテーマにどんどんチャレンジし、世界一高収益なこんにゃく関連企業を目指します。高い付加価値を創造することによって、豊かさを実感でき、更なる高い付加価値へチャレンジすることによって、一人ひとりが遣り甲斐をもって、仕事に取り組める様なそんな会社を目指します。
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